【Calvin Klein|Veronica Leoni期】6年の沈黙を破る女性——初の女性クリエイティブディレクターが背負うランウェイ復帰

2026.10.03 Calvin Klein 編集部
ランウェイという創造の場を失い、広告だけが残ったブランドの空白を理解させる

結論から言う。
Veronica Leoni(ヴェロニカ・レオーニ)の起用は、Calvin Klein(カルバン・クライン)が「広告で欲望を売るブランド」から「服で何かを語るメゾン」へ、もう一度軸足を戻そうとする賭けである。
2024年5月30日、彼女はCalvin Klein Inc.のCreative Director of Collectionに指名された。
空いていた席は、6年前から空いていた。

その6年を、まず数えておきたい。

ランウェイが消えた6年——空席の正体

Calvin Kleinは2019年以降、ランウェイを持たないブランドだった。
これが出発点である。

Raf Simons(ラフ・シモンズ)が最高クリエイティブ責任者を退いたのは2018年12月。
契約満了の8か月前の、途中退場だった。
翌2019年、ハイエンドのランウェイ部門Calvin Klein Collectionそのものが廃止される。
同じ頃、654 Madison Avenueのニューヨーク旗艦店も閉じた。

就任からわずか2年半。
Simonsは2017年のCFDAでウィメンズ・メンズ両部門のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを同時に受賞していた。
評価の頂点にいた人物が去り、部門ごと消えた。
これは不振の整理というより、創造の軸を一度手放す決断に近い。

残ったのは、下着とデニムと、広告だった。

ここに矛盾がある。
Calvin Kleinはもともと、広告が服以上に文化を動かしうることを証明したブランドだ。
下着のウエストバンドに刻まれたロゴ、身体の線をそのまま見せる撮影——それが欲望の記号として機能することを、このメゾンは誰よりも早く理解していた。
ならばランウェイなど要らないのではないか。

実際、そう振る舞ってきた節がある。

服がなくても欲望は回る、という成功体験

2024年初頭、ブランドは一本のキャンペーンで自らの強さを再確認した。
だからこそ、話はややこしくなる。

1月4日に公開された2024年春のキャンペーンは、俳優Jeremy Allen White(ジェレミー・アレン・ホワイト)を起用。
撮影はMert Alas(マート・アラス)、音楽はLesley Goreの「You Don’t Own Me」。
公開から48時間で1,270万ドルのメディア価値を生み、初週の下着売上は前年比30%増を記録した。
北米部門は2024年第1四半期、2022年以来はじめて増収に転じている。

数字だけ見れば、答えは出ているように見える。
服のコレクションなど作らずとも、身体を見せる広告さえあれば売上は動く。
8月にはやはりWhiteを主役にした2024年秋キャンペーンが世界同時公開された。
成功の方程式は、繰り返せるものだった。

ところが、である。

「You Don’t Own Me」——誰にも所有されない、という解放の歌を背景に流しながら、画面が差し出しているのは消費財としての身体だ。
解放を歌いながら、欲望を管理し所有しているのは広告の側である。
この居心地の悪さは、Calvin Kleinが抱え続けてきた矛盾そのものだ。
身体を商品にすることは欲望の解放なのか、それとも身体を売買する新しい形の消費なのか。
広告が生む欲望は、服よりも強くなりうる。

強くなりすぎた欲望は、服を不要にする。
そこが問題だった。

広告は熱量を生むが、正統性は保証しない。
下着が売れることと、ファッションとして語られることは別の話だ。
6年のあいだ、Calvin Kleinは前者で稼ぎ、後者を失っていた。
Leoniの席が空いていたのは、まさにこの後者の席である。

広告が服を不要にするほど強い欲望を生む矛盾、解放の歌と消費される身体の対立を理解させる

なぜ「Collection」のディレクターで、しかも初の女性なのか

Leoniに託されたのは、消えていた「語る服」の再建である。
肩書きがそれを物語っている。

彼女の役職名はCreative Director of Collection。
メンズ・ウィメンズのアパレルだけでなく、下着からアクセサリーまでを一人で束ねる。
報告先はGlobal Brand President——発表時点ではEva Serrano(2025年8月時点ではDavid Savmanが務める)。

ここでSimons時代との違いが効いてくる。
Simonsは最高クリエイティブ責任者としてブランドの上に君臨した。
Leoniはブランド・プレジデントの下に置かれる。
創造が経営の上位概念だったSimons期に対し、Leoni期の創造は明確に事業構造の中に組み込まれている。

この配置をどう読むか。

創造の格下げと見ることもできる。
かつて頂点にいた席が、今度は一段下にある。
だが別の読み方もできるはずだ。
広告だけで走れることを証明してしまったブランドが、それでもなお服を作る人間を事業の中枢に戻した——この文脈に置けば、Leoniの席は格下げではなく、欠落の修復に見えてくる。

そして、Calvin Klein Collection史上初の女性クリエイティブディレクターである、という事実。

創業者Calvin Kleinも、Francisco Costa(フランシスコ・コスタ)も、Italo Zucchelli(イタロ・ズッケリ)も、Raf Simonsも、男性だった。
身体——とりわけ女性の身体——を見せることで欲望を駆動してきたブランドの創造を、はじめて女性が統べる。
「誰にも所有されない」と歌ってきたメゾンの、まなざしの位置が変わる可能性がある。
ここを過大評価するのは早い。
デビューはまだ先の話だ。
ただ、構造としての転換であることは確かだろう。

彼女が何を携えてくるのかは、経歴が示唆する。

創造が経営構造の中に組み込まれた配置と、初の女性ディレクターによるまなざしの転換を理解させる

QUIRA、LVMH、そしてミニマリズムの本籍

Leoniの来歴は、Calvin KleinのDNAと無理なく重なる。
これが人選の核心だと思う。

Jil Sander(ジル・サンダー)、Céline(セリーヌ)、Moncler(モンクレール)、The Row(ザ・ロウ)。
彼女が通ってきた場所を並べると、ひとつの系譜が浮かぶ。
削ぎ落とすこと、仕立ての正確さ、装飾を信じないこと——いずれも、過剰を排する側のメゾンである。

とりわけJil SanderとThe Rowは、ミニマリズムという言葉の本籍のような存在だ。

Calvin Kleinの哲学は「すべては裁断から始まる」。
クリーンなライン、研ぎ澄まされたシルエット、モノクロームのパレット。
身体の線を際立たせることで、装飾なしに強さを出す。
この思想と、Leoniが鍛えられてきた環境は、驚くほど近い。

2021年に自身のレーベルQUIRA(クイラ)を立ち上げ、2023年にはLVMH Prizeのファイナリストに名を連ねた。
大手メゾンの内側で仕立てを学び、独立して自分の言葉を持ち、その言葉が国際的に評価された——経営の歯車として据えるには十分な実績であり、同時に、作家としての固有の声を持った人物でもある。

つまりCalvin Kleinは、自前の美学の延長線上にいる人物を選んだ。
革命家ではなく、本籍の近い継承者を。
これが吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。

分かっているのは、日程だけだ。

Leoniの来歴がCalvin Kleinのミニマリズムと無理なく重なる系譜であることを理解させる

2025年2月、6年ぶりのニューヨーク

復帰の期日は決まっている。
あとは中身を待つだけだ。

Calvin Kleinは2025年2月、6年ぶりにニューヨーク・ファッションウィークへ戻り、2025-26年秋冬の男女ラインを提示すると発表した。
Leoniのデビューコレクションは2025年秋。
閉じた旗艦店の代わりに、ブランドはParis・シャンゼリゼ44番地、そして東京・原宿に大型店を構える。
原宿の旗艦店は2025年8月29日開業、3フロア・約1,315平方メートル、3階ではFall 2025のCalvin Klein Collectionを展示するという。

ランウェイと旗艦店が、同じ時期に戻ってくる。

背景にはPVH+計画がある。
2022年に始動し、2025年までに全世界125億ドルの売上を掲げる構想だ。
2022年のライセンス込み小売売上は93億ドル。
この巨大な数字の装置のなかで、Leoniのコレクションは「語る服」の供給源として期待されている。

ここで冒頭の賭けに戻る。
広告だけで売上は動いた。
それは2024年のキャンペーンが証明した。
にもかかわらずブランドはランウェイを再建し、服を作る人間を据えた。
欲望を回す装置としてのCalvin Kleinは、すでに完成していた。
欠けていたのは、その欲望に意味を与える服のほうだった。

「You Don’t Own Me」を流しながら身体を差し出す——その矛盾を抱えたまま、メゾンは再び服で語ろうとしている。
身体を見せる広告が生んだ熱を、Leoniの仕立てがどう受け止め、どう言い直すのか。
装飾を削ぎ、身体の線で欲望を喚起してきたブランドの思想を、はじめて女性のまなざしが引き継ぐとき、「誰にも所有されない」という歌は、少しだけ違う意味を帯びるのかもしれない。

その答えは、2025年2月のランウェイに置かれている。
6年間空いていた席の正体が、そこでようやく見える。

FAQ

Veronica Leoniはどんな経歴の人物ですか?

Jil Sander、Céline、Moncler、The Rowで経験を積んだのち、自身のレーベルQUIRAを立ち上げたデザイナーです。
2023年にはLVMH Prizeのファイナリストに選ばれました。
削ぎ落とした仕立てを得意とする系譜に属し、Calvin Kleinのミニマリズムと親和性が高い人選とされています。

Raf Simons時代と何が違うのですか?

Simonsは最高クリエイティブ責任者としてブランド全体の上に立ちましたが、LeoniはGlobal Brand Presidentに直接報告する体制です。
創造が経営の上位にあったSimons期に対し、Leoni期の創造は事業構造の中に組み込まれています。
またLeoniは、Calvin Klein Collection史上初の女性クリエイティブディレクターにあたります。

Calvin Kleinのランウェイ復帰はいつですか?

2025年2月、6年ぶりにニューヨーク・ファッションウィークへ復帰し、2025-26年秋冬の男女ラインを提示すると発表されています。
Leoniのデビューコレクションは2025年秋です。
2019年のCalvin Klein Collection廃止以来、ブランドはランウェイから離れていました。

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